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2019/07/24

週末農業に試住プログラム!千葉県富津市の仕掛け人・滝田一馬氏に聞く、移住促進の考え方

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移住者は50人超え。人口1500人の町・金谷と日本全国の若者を繋ぐ場“まるも”とは」の記事で紹介したように、若者の移住者が続々と増え続けている千葉県富津市金谷。

その背景にはコワーキングコミュニティまるもの存在がありましたが、他にも、関係人口づくり、移住促進活動の中心的存在となっている人物がいます。その名も滝田一馬氏

金谷を拠点に、週末農業サークルの立ち上げや試住プログラムの立ち上げ、炊きた亭(シェアハウス)の運営など様々な取り組みを行なっている滝田氏は、生まれも育ちも東京であるそう。

都会で育ち、就職したにも関わらず、なぜ金谷に移住することにしたのでしょうか。また、どのような想いを持ち、移住促進についてどのように考えているのでしょうか。詳しい話をお聞きしました。

都会で働く人の暮らしに、農業を!
脱サラ移住して始めた、週末農業サークル

東京農業大学に在学していたという滝田氏が、初めて金谷と出会ったのは大学4年生の時。ふと訪れた金谷で農家の人と仲良くなり、毎週末金谷に足を運ぶようになったのだとか。

その後大学を卒業して都内のIT会社に就職した後も、週末は金谷に足を運び、仲良くなった農家の方と一緒に農業をしていたそうです。

金谷で地域の仕掛け人として知られる、滝田一馬氏

金谷で地域の仕掛け人として知られる、滝田一馬氏

「平日は会社員、週末は農業という生活を丸2年続けたのですが、途中から“週末田舎暮らしってすごくバランスが良いな”と感じるようになりました。
周りの友人や同僚に羨ましがられることも多く、この生活をもっと多くの人に広めたいと思ったんです。

でも、自分のように農大出身の人は農家の人との繋がりを作りやすいですが、他の人はそうもいきません。そこで、“週末田舎暮らしをしたい都会の人たちと、地域のパイプ役になろう”と考え、金谷に移住することにしました。」

ー移住して、まず最初はどのような取り組みを始めたのでしょうか?

「1年目は“とにかく暮らしてみて、金谷という町について、住民について知ろう”と考えていたので、地元の観光商業施設(the Fish)で働いたり、当時町おこしの中心となっていた金谷美術館で働いたりしました。

その傍ら月に一度は田舎体験イベントを開き、農家の方からいただいた鶏をさばいて食べたり、収穫したジャガイモを調理して食べたりしていましたね。」

鶏イベントの様子

鶏イベントの様子

ー金谷は東京から片道2時間という場所に位置しているので、都会の人を相手に週末にイベントを行うにはなかなか良い土地ですね。

「そうなんです。狙い通り、参加者の多くは都内の会社員でした。
しかし、やっていく内に“こういうのって良いとこどりだな”とモヤモヤし始めたんです。

自分が広めたかったのは、“自然と触れ合うって楽しいですよ”ということではなくて、“日常に田舎を取り入れる”という生き方。収穫などの楽しいイベントだけを共有するのではなく、暮らしの中に自然を取り入れて欲しかったんです。

そこで、移住して2年目に突入する頃に、会員制の週末農業サークル“ベジタブルサークル”を立ち上げました。」

自分たちで育てた野菜を収穫する、ベジタブルサークル

自分たちで育てた野菜を収穫する、ベジタブルサークル

ー日常の中の“非日常的なイベント”として農業体験をするのではなく、都会の人の暮らしの一部に自然を取り入れたかったんですね。
ベジタブルサークルは、今でも続いているのでしょうか?

「立ち上げてから今年で3年目になりますが、10人くらいで活動を続けています。

最初の頃からメンバーはあまり変わらず、すごく仲が良いですね。結婚しても家族を連れてきたりと、長く続けていけたらと思います。」

関係人口を増やすために始めた、シェアハウス「炊きた亭」

滝田さんが暮らしていた古民家(現在の炊きた亭)

滝田さんが暮らしていた古民家(現在の炊きた亭)

ーまずは田舎体験イベント企画・運営し、その後週末農業サークルを立ち上げたとのことですが、その次は何をされたのでしょうか?

「ベジタブルサークルを立ち上げたことで、月の収入の半分くらいを自分が始めたサービスで賄えるようになりました。
そこで、もう少し町おこしのような活動にコミットしていきたいと考えるようになり、行政やNPOと一緒に様々な活動を行いました。

丸2年金谷に住み、色々な人と関わりながら活動をしていく内に気づいたのは、“金谷は都会の人が定住するのに適した町ではない”ということ。東京からアクセスが良いということもあり、2拠点生活をしたり、イベントやプロジェクトの時に短期滞在する人が多いのです。

町としても、来るもの拒まず去る者追わずな風土があるので、“この町は人口を増やすというよりも、常に関わっている人(関係人口)を増やすことで盛り上がっていく町なのではないか”と考えるようになりました。」

ー“町おこし”というと、定住者を増やすことを目標に掲げる町が多いですが、実際に住むことで金谷の特徴に気づき、その土地に合った取り組みを行うことにしたのですね。

「ちょうどその頃、まるもを運営している山口さんが始めた田舎フリーランス養成講座(以下:いなフリ)が軌道に乗り始め、受講生の滞在先が足りないという話を聞くようになりました。

金谷に移住してからずっと古民家で1人暮らしをしていたのですが、そろそろ広すぎる家を持て余していたので、思い切って自分の家をシェアハウスにしてしまおうと。」

ーそうして生まれたのが、炊きた亭ですね。
他にも滝田さんは、試住プログラムを運営しているとお聞きしましたが、それはいつ頃始めたのでしょうか?

「シェアハウスを始めた当初はいなフリの受講生が住人になることが多かったのですが、いなフリは1ヶ月の講座なので、それが終わると金谷を出ていってしまう人も少なくありません。

いなフリ期間中以外も安定的にシェアハウスを埋めたいと思ったのと、山口さんとは違うチャネルで自分も移住者の受け入れをしたいと考え、試住プログラムを立ち上げることにしました。」

自分を見つめ直す場所にしてほしい。
地元企業と提携した試住プログラム「My Turning Point」

試住プログラム「My Turning Point」について語る滝田氏

試住プログラム「My Turning Point」について語る滝田氏

ー試住プログラムとは、具体的にどういった内容のプログラムなのでしょうか?

「金谷で暮らしてみたい人を対象に

    ・仕事
    ・住まい
    ・コミュニティ

を提供するパッケージプログラムです。各提携企業からプログラムに対して、広報委託費という形で報酬をもらい、そのお金を使って、移住者の住むシェアハウスやコミュニティ環境を提供しています。

具体的には、以下のようなサポートを行なっています。」

<仕事>
地元企業と提携し、週3日働くことで10万円の給料を得ることができる。(※所定の勤務条件あり)

<住まい>
指定のシェアハウスに滞在する場合は家賃・光熱費・水道代をプログラムが負担。

<コミュニティ>
コワーキングコミュニティまるもの会員費(月額6,000円)をプログラムが負担。
フリーランスとして副業を行う場合は作業スペースを確保できるだけでなく、他の会員と交流することで地域のコミュニティに所属することができる。

ー家賃・光熱費・水道代がかからなければ、月給10万円でも最低限生活をしてくことができますね。
しかし、ここまで負担して企業側にメリットはあるのでしょうか?

「一応、企業側も“土日祝日を中心に、週3日、半年以上働ける人”という制約をつけています。

金谷は観光地なので、土日祝日に忙しくなるお店が多いんです。
でも、地元の人は家族を持っている人が多いので、土日祝日に安定して出勤できるスタッフが少なく…。

それを担ってくれる人がいると、企業側にとってもメリットとなるんです。もちろん、地域企業として移住者を応援したいという側面からもこのプログラムを支援していただいています。

2017年の2月頃から始めたこのプロジェクトですが、企業側の反応も良く、最近では新たな提携先も増えました。」

ー提携先を増やしていくことで、期間限定の移住者たちが、金谷での仕事を選べるようになると良いですね。
週5日ではなく、週3日勤務にしたことには何か狙いがあるのですか?

「このプログラムですが『My Turning Point』と名付けていて、都会で働く人たちが自分を見つめなおし、次の一歩を踏み出すための準備が出来る場所になれば良いなという想いを込めています。

そのため、週3日働くことで生活を営む最低限のお金は稼ぎつつも、残りの4日間の余白で自分のやりたいことにチャレンジしたり、これから先のことを考える時間を作ってもらえると嬉しいです。」

ー“移住”や“田舎で暮らすこと”をコンテンツとして打ち出すのではなく、“自分を見つめ直す”というテーマを設け、明確なターゲット設定を行っているからこそ、ターゲット層の心を捉え、全国から人が集まるのですね。
このプログラムに行政は関わっているのでしょうか?

「このプログラムを作る際に気をつけたことが、“移住”といった言葉に頼らないテーマを設けることと、行政の補助金に頼らないということです。

行政の補助金に頼ってしまうと、どうしてもビジネスとして持続することが難しくなってしまうんですよ。サービスが上手くいって、利用者も増えている時に補助金が打ち切られてしまったら、どうしようもなくなってしまいますからね。」

人口増加は結果論で良い。
大切なのは“町に来た人にどうなって欲しいか”を考えること

移住イベントでスピーチを行う滝田氏

移住イベントでスピーチを行う滝田氏

ー滝田さん自身は、補助金に頼らずにサービスを運営しているとのことですが、移住促進に取り組む行政へのアドバイスはありますか?

「前例のない施策を導入する時、やはり行政主体だとなかなか許可がおりなかったり、スピード感が鈍くなってしまうことって多いと思います。
僕自身、移住2年目の時に行政とお仕事をさせていただき、“行政って大変だな”と感じました。

なので、民間で“やりたい”という人・企業がいたら、その人たちをサポートするのが1番良いのかなと。民間と一緒にやることで町の人たちを巻き込みやすくなりますしね。
“やりたくてもお金がない”という人は多いので、立ち上げフェーズで補助金を活用してもらうのはすごく良いと思います。」

ーお互いの弱点を補い合える官民連携、とても良いですね。
行政としての、地域活性の目標設定はどのように行えば良いと思いますか?

移住ってあくまで手段であって、目的じゃないんですよ。

なので、移住者の増加を目標に設定するのではなく、外の人が自分の町に来ることでどうなって欲しいのか、どんな人に来て欲しいのかというところから考え、それに向けて最適な仕組み(施策やサポート)を作っていくのが良いと思います。

ぶっちゃけ、人口だけを増やしても町の経済事情ってそんなに変わらないですし、逆に言えば、関係人口を増やすだけでも町の経済は今より潤いますしね。」

ー滝田さん自身も、都内で働いていた時に疲弊して行く友人や、週末田舎暮らしを羨む同僚達を見て移住を決意したとおっしゃっていましたね。

「はい。
そういった人たちが自分の人生について考えたり、新しい生き方を始めるためのサポートをしたいという想いで活動しています。その結果、金谷という土地を気に入り長期滞在する人や、移住する人も出てきました。

でも、1番大切にしているのは、都会で働く人たちの人生の選択肢を増やし、幸せに生きる人を増やすことですね。」

ー“移住”はただの結果論ということですね。
今後は、どのような活動をしていく予定ですか?

「現在は富津市内にある鋸南町という地域の古民家を改装し、週末の田舎隠れ家をコンセプトにしたスペースを作っています。

東京は僕の故郷でもありますし、東京の生活でしか得られないことがあるのも分かっていて、大好きな街のひとつです。だけど、田舎の生活があることも知ってほしいし、都会の人たちが田舎と関わることで人生に良い変化が起これば嬉しい。

田舎と関わるペースはそれぞれ違って良いと思うし、週末だけ金谷に来る、2拠点生活を始めるとかでも全然良いんです。
“東京も楽しいけど、田舎も楽しいよ。自分の居場所をもうひとつ田舎に作るだけで、人生がさらに楽しくなるよ”ってことを伝えていきたい。
その為に、もっと色々なバリエーションのサービスを増やしていきたいです。」

町の特徴を捉え、最適な活性化施策を

自分がやりたいことと、金谷という町の風土・立地を活かして様々なサービスを立ち上げている滝田氏。その結果として、移住者の増加に貢献することはあるものの、それはあくまで結果論であり、目的ではないそう。

移住促進に取り組む方々は、滝田氏の話を参考に、自分の地域を活性化する方法は果たして移住者の増加がベストなのか、移住者を募る場合どんな人を対象に、移住することでどうなって欲しいのか、今一度考え直してみてはいかがでしょうか。